<インタビュー>1型糖尿病とともに生きる工夫、偏見との向き合い方、そして伝えたいこと

IWATA PROJECT Interview Vol.2
元プロ野球選手 岩田 稔さん(後編)
17歳で1型糖尿病を発症された時、「人生は終わった」と感じられた岩田さん。
取材の前編では、そこから、少しずつ前を向けるようになるまでの、人との出会いや思いについて伺いました。
後編では、1型糖尿病とともに生きるなかで見つけてきた血糖管理の考え方や、競技生活の中での工夫、周囲の誤解との向き合い方、そして社会や医療者への想いを伺いました。
血糖管理は、完璧を目指さなくていい
Q.血糖管理や体調管理と付き合っていく上で、岩田さんご自身はどのように考えていらっしゃるのでしょうか。
【岩田さん】
野球というスポーツをやってきた中で、僕は「完璧はない」と思っているんです。
だから、1型糖尿病と向き合っている中でも「完璧を求めるのはしんどいから大体でいい」と思っています。
血糖管理もインスリン量の調整も実際にやってみないと、「自分にはこの量が合っている」、「さっきあれを食べたから血糖値がこれだけ上がった」などは分からないですよね。
血糖値が高くなったら、「これは駄目か、じゃあ今度はこっちを食べてみよう」と、いろいろ選択肢が増えてくると思います。
いろいろなことを試すことも、モチベーションにはつながっています。
うまくいかなくても、現状の体調を考えて「しゃあないな」と受け入れ、また試していくといったところです。
食事も登板準備も、競技生活の中で自分なりに調整してきた
Q. ご自身に合っていた工夫は何かありますか。
【岩田さん】
プロ野球の一軍で投げているときは基本的にナイターが多くて、試合が終わるのは夜の9時半から10時ぐらいで、そこから帰宅して遅い夕食となります。
遠征先の場合はホテルでの食事もありますが、僕はちょうどパーソナルトレーナーを一人雇っていたので、その方を食事に連れて行かないといけないという理由で毎回外食していました。
でも、その時間に空いている飲食店は、基本的に居酒屋か焼き肉屋しかありません。
そして、意外にも焼肉は血糖値が上がらないんですよ。たんぱく質が多いからです。
実際、メニューにはサラダもあるし、完全に炭水化物をゼロにするわけにはいかないので、締めにごはんということもあります。
夜の焼き肉にマイナスなイメージを持つ方がおられると思いますが、僕は勝手に「体にいい」と思っていました。
それから、僕は登板の立ち上がりが悪いとずっと言われていたので、原因を探ろうと、準備の仕方を変えるなどいろいろ試していたんです。
そして、やはり血糖管理だということに気づいたんですね。
うまくいっていないときは、300(mg/dL)近くまで血糖値が上がってしまっていることがほとんどでした。
最初、主治医の先生からは、先発で長いイニングを投げることから計算すると血糖値は高めに持っていったほうがいいとアドバイスをもらって、それを実践していたのですが、うまくいかない中で血糖値を何気なく見返したら、そういう高血糖が続いていたんです。
高血糖になると体は動かなくなります。
プレー中はアドレナリンが出るので、アドレナリンで血糖値が上がってしまう、そして上がった分は補正インスリンでは落ちないということを実感しました。
逆に低血糖気味で出ていったらどうなるかなども考えながら、血糖管理を相当気にしていました。
プレッシャーがかかる場面ほど、前向きな言葉で自分を動かす
Q.選手時代、試合でプレッシャーがかかる場面などで体調とメンタルの部分を整える上でどんな工夫をされていましたか。
【岩田さん】
プレッシャーのかかる状況での登板はかなりありましたが、そういうときは意外にしっかりと抑えているんですよ。
やはり気持ちが入っているんですよね。
「俺のチャンスが来た、もうやるしかない、もう行くしかない」
そんな感覚で投げていました。
試合結果はともかく、自分の投球内容的にはよかったイメージがあります。
多分、嫌な場面だと思った瞬間、思っていたのと違う方向に試合が動き出すんですよ。
Q.岩田さんの「やらな、しゃーない!」の言葉にも詰まっていると思うのですが、プレッシャーがかかる場面でも逆にそれをバネにして気持ちが上がっていくという印象を持ちました。
【岩田さん】
確かにそうかもしれないです。
そういうときほど、逆に前向きになることを自分に言い聞かせて進んでいると思います。
Q.そういうときは血糖管理なども意識されているんですか。
【岩田さん】
はい、少し低めに持っていくようにして、高血糖にならないようにすることだけを意識していました。
長い間、血糖管理をしながら野球をしている中で、ゼリー系のものをしっかり取ると血糖値が上がり過ぎてしまうことを感覚的に把握していたので、少し舐めるぐらいにしておきました。
そんな工夫をすると意外に血糖値が上がらず、かといって落ちないということを自分で見つけて、微調整していました。
Q.前向きな言葉で自分を高めるというお話がありましたが、意識的に声に出されていることはありましたか。
【岩田さん】
大きい声を出すなどはありませんが、「ここで俺が最高のピッチングをしたらかっこええな」などを、自分に言い聞かせるようにぼそっと言っていました。
ピンチを楽しむというわけではないですが、そういう言葉はいろいろあります。
言ったことは返ってくると思っているので、言葉に出すことは重要だと思いますね。
社会にもっと、正しい知識が広がってほしい
Q.社会にもっと理解してほしいこと、変わってほしいことはありますか。
【岩田さん】
糖尿病のない人にも正しい知識をもってほしいです。
学校の授業などで習っても、深いことは勉強しないし、世の中に起きている現状のスティグマなどは分からないままです。
その上で勝手なイメージでしゃべってしまう人たちもたくさんいます。
こちらは全然知らない人にどこから説明していったらいいかが分からないので、まずは少しでも知ってもらいたいですね。
なじんでもらえると、いろいろと変わってくると思います。
僕は、発症したことで内定を取り消されたという過去があるので、その偏見を変えていかないといけないとは思っているんです。
いま、病気になったことで人生が変わってしまう人もいるかもしれません。
ひどい差別を受けている人もいるかもしれません。
でも、血糖管理をしていれば、糖尿病のない人と同じように働けます。
それに、この病気にかかっていない方よりもずっと健康に気を遣って生きていますから、寿命が長いということも言えますよ。
医療従事者には、治療だけでなく『前向きになれる関係』をつくってほしい
Q.1型糖尿病の啓発活動において医療従事者に望むこと、医療スタッフの方々にお伝えしたいことはありますか。
【岩田さん】
特に1型糖尿病のことを知らない方、そして家族の方にも、1型糖尿病がどういう病気なのか、それから「こういうことができると、健康な方と同じような生活が送れる」ということもお話ししてもらいたいですね。
それと、アットホームな病院ほど、その病院に通っている人にとって「家に帰ってきた」「来月ここに来るまで血糖管理を頑張ってみよう」など、前向きになれると思います。
病院の雰囲気づくりは大事ですね。
僕はインスタグラムをやっているのですが、病院の先生や看護師さんも見てくれているんですよ。
それで、「この間こういうことを言っていたね」と声をかけてもらって、たわいもない日常会話が生まれます。
そうするとコミュニケーションがしっかり取れます。
ですから、上手にきっかけをつくってもらえると、患者さんは会話がしやすくなると思います。
そうやって日常会話ができるぐらいになると、患者さんは「また病院に行きたい」という気持ちになってくると思います。
Q.啓発活動を行っている岩田さんが医療従事者の方と一緒にしてみたいことはありますか。
【岩田さん】
僕は1型糖尿病を知ってもらう活動をいろいろとやっていますが、そこに参加していただければ、「一緒に1型糖尿病の活動をしています」ということがどんどん打ち出せますし、僕たちはメディアにその活動を出すことができるので、さらに「1型糖尿病を知ってもらうきっかけづくりを一緒に頑張っています」と言えると思います。
そういう場にどんどん足を運んでいってもらいたいですね。
僕以外にもいろいろな方が1型糖尿病を抱えながら活動していると思うので、その人たちの動向もチェックして、イベントがあれば行ってみるなどの行動を起こしていくと、患者さんも行ってみたいと思うかもしれません。
患者さんがそう思えば、患者さんの周りの方も興味を持って活動に参加してみようとなって、発展につながっていくと思います。
今つらい人にも、『大丈夫』と伝えたい
Q.最後に、岩田さんからメッセージをお願いします。
【岩田さん】
1型糖尿病を発症してとても大変な状況にいらっしゃるとは思いますが、大丈夫です。
僕も大丈夫でした。
まずは、やはり血糖を管理していかないといけないので、どうすれば自分の血糖が安定するのか、早く自分で見つけて把握していってください。
「これを食べたらこれだけ上がる」などを勉強して、実際に試してみることが大事です。
「面白そう」と思うようなことを、低血糖症状が出過ぎない範囲で少しずつ試してほしいと思いますね。
また、同じ病気を抱えながら、さまざまな分野で活躍している方について調べてみてください。
「こんな歌手や俳優さんもいる」と知ったら、自分も頑張ろうと思えますし、そのうち「こうなりたい」と思えると思います。
そして、どうしたらなれるかを考えながら、自分なりにいろいろと頭を使って頑張ってください。
特に子どもたちは、将来に向けて夢や目標を持てれば強いと思うので、なりたい自分になるためにもいろいろなことにチャレンジしながら、与えられた人生を楽しんでもらいたいです。
ご両親も協力してくれると思います。
友達をたくさん作って、1型糖尿病のことを周りの方に知ってもらうことも非常に大事です。
中には隠したいという人もいると思いますが、少し勇気を持って話してみようと思えれば、階段を登るきっかけにはなると思います。
きっかけをつかむことができれば、前向きに人生を進めていけます。
大変なこともありますが、それも人生です。
必ず自分の経験の中にプラスになって返ってくると思います。
起きること全てに対して、「人生に面白いことが起きている」と思うぐらいのマインドを持っていれば、本当に面白いことがどんどん起きてくると思います。
人生は楽しんだもん勝ちです。
僕はいま楽しいです。
みんな、頑張っていきましょう。
◇編集部より◇
血糖管理をはじめ、日々の生活や競技の中で試行錯誤を重ねてきた岩田さん。
「完璧を求めず、また試していく」という姿勢に、大きな勇気をいただきました。
「大丈夫。僕も大丈夫でした。」という岩田さんの言葉は、今まさに不安やつらさを抱える患者さんにとって、大きな支えになるのではないでしょうか。
好きなことや夢をあきらめず、周囲に少しずつ病気のことを伝えながら、人生を楽しんでほしいというメッセージにも、力強い希望を感じます。
そして、その歩みを支える医療従事者には、治療だけでなく、患者さんが「また来たい」「次まで頑張ってみよう」と思えるような、温かな関係づくりが求められます。
患者さん、家族、医療者、社会がともに理解を深めることが、前向きな未来につながると感じました。